黒糖と泡盛の低迷を救う世界初の黒糖リキュール「KOKUTO DE LEQUIO」を後閑信吾が語る。
泡盛と沖縄黒糖、黒糖由来のラムを原料とした世界初のリキュール「KOKUTO DE LEQUIO(コクトウ デ レキオ)」。世界的なバーテンダー・後閑信吾さんと彼が率いる「SG Group」の面々、そして現存する首里最古の泡盛蔵「瑞穂酒造」との共同開発品だ。
スペイン語で 「琉球の黒糖」を意味する黒糖リキュールはいかにして誕生したのか。後閑信吾さんがそのすべてを語った。
さくら酵母でつくるフル-ティな泡盛に、異なるキャラクターを持つ西表島、与那国島の黒糖を溶けこませたリキュール。西表島産は濃厚でクリーミーな旨味、与那国島産は黒糖由来のビターな余韻のアクセントが冴える。さらに、黒糖の風味をより引き出すために黒糖から造るラムを少量ブレンド。これまでにないリキュールが完成した。
蔵人・仲里 彬さんとの出会いが、黒糖と泡盛という伝統素材を合わせたリキュールを生んだ。
2022年3月、沖縄・那覇にバー「El Lequio(エルレキオ)」を開店しました。そこに泡盛の蔵元「瑞穂酒造」の仲里彬さんが足しげく通ってくれていたのです。製造部商品開発室室長として泡盛の開発はもとより、酒類に関する微生物研究やスピリッツの開発を手がける彼は、「バーテンダーになりたかった」というほどのバー好き。彼が造るジンやラムなどの洋酒はすごくクオリティが高く、バーのメンバーで瑞穂酒造に見学に行ったんです。
蔵で、泡盛の消費が落ちていることや黒糖が余っている現状を訊きました。黒糖はとても特徴的な味わいで、おもしろくておいしくて汎用性が高いのに、海外では全然知られていない。泡盛も同じことが言える。沖縄黒糖が中国から伝来して2023年でぴったり400年、泡盛は約600年の歴史を持つというのに。ならば泡盛をベースに黒糖のリキュールをつくったら結構いいのができそうじゃない、なんて話になって、その晩、みんなで食事をしている時にはもう商品名まで決めていました。実際はそんなに簡単じゃなかったけど、すでに頭の中では味のイメージができ上がっていたのです。
今世界で最も注目されるバーテンダーの一人、後閑信吾さん。世界初となる「KOKUTO DE LEQUIO」の開発に本気で取り組んだ。
那覇「El Lequio(エルレキオ)」の店名は、⼤航海時代に到来したスペイン⼈とポルトガル⼈が琉球を“レキオ”と呼んだことに由来。15mのロングバーは圧巻!
現存する首里最古の泡盛の蔵元「瑞穂酒造」製造部商品開発室室長の仲里彬さんと。ふたりの出会いが、黒糖リキュール「KOKUTO DE LEQUIO」の共同開発につながった。
黒糖のテロワールを活かした甘味や酸味、ミネラル感、複雑味が持ち味。
沖縄黒糖は、8つの離島でつくられています。土壌や品種、製法の微妙な違いで、総体的に島ごとに味が違う。テロワールですね。8島すべてのテイスティングを相当重ねたので、香りでどの島か当てられるようになりました(笑)。今回は、癖があってビターな余韻が愉しめる与那国島産と、フレーバーが強く濃厚な西表島産を選びました。
仲里さんはすごく仕事が早くて、すぐにサンプルを上げてくれました。その数50種類以上。もう十分旨いというところから、さらに細かく詰めました。彼のフィルターを通ったものだけで50種類以上ですから、その前の段階から考えると何百という組み合わせを試作してくれたわけです。
原料は、泡盛と黒糖、そのふたつをつなぐ黒糖由来のラムのみ。添加物も香料も加えていません。最小限の原料でどこまで目指す味を表現できるかが、今回の一番のチャレンジでした。黒糖のポテンシャルの高さと、仲里さんの製造技術の高さのおかげで、僕が思っていた以上に黒糖の味がしっかり出たリキュールができました。甘さの中のかすかな酸味や塩味、ミネラル感といった複雑味が感じられます。
さとうきびをそのまま煮詰めた黒糖本来の味わいと、泡盛のベーススピリッツとしての可能性を追求。シンプルで素材のポテンシャルを最大限に活かした“究極の引き算”のリキュールを生んだ。
「日本の伝統的なものだからそのまま覚えてほしい」との想いから、ネーミングには「KOKUTO」を用いた。ラベルは南米と琉球をテーマにデザイン。「地には針突(はじち)という昔の沖縄の女性がいれていたタトゥーの模様や、虫眼鏡じゃないと見えないぐらい細かい字で沖縄の方言でいろんなメッセージを入れています」と後閑さん。スペイン語で「進化する伝統」というメッセージも刻まれている。
ロックにカクテル、ミルク割りでも美味!世界に通用するリキュール。
アルコール度数の高いスピリッツに対して、リキュールは度数が低く、誰にもなじみやすい。素直においしく、プロが飲んでも複雑味やこれまでにない味わいを感じてもらえると思います。
プロのパティシエや料理人がどんなふうに使うかも興味がありますね。あとはやっぱり海外。黒糖も泡盛も、海外では全然知られていないので。国によってはブラウンシュガーやジャガリーはありますが、そのリキュールは意外と造られていないし、未知の泡盛もおもしろがってくれるはず。
飲み方はシンプルにロックでもおいしいし、カクテルならベースにも副材料にもなります。ラムやウイスキーと合わせて、オールドファッションドのようにしてもいいし、エスプレッソマティーニにも。ミルク割りや、アレキサンダーのように生クリームとスピリッツにも合わせられる。ロングカクテルなら、トニックウォーターにシェリービネガーやカカオビネガー、フルーツ系のビネガーなんかを少し垂らしてもいいですね。
この先は、ゆっくり時間をかけながら、違う産地の黒糖で第2弾、3弾を展開していきます。黒糖が足りなくなるぐらい反響があったらいいな、と思っています。
後閑信吾(ごかん・しんご)
SG Group 代表。バー業界において今世界で最も注目されるバーテンダーの一人。
2006年に渡米し、NYの名店Angel’s Shareでヘッドバーテンダーを務める。2012年世界最大規模のカクテルコンペティション バカルディレガシーにアメリカ代表として出場し、世界大会優勝。
2014年 上海にSpeak Lowをオープン。以後、新しいコンセプトのバーを次々とオープンさせ、現在国内外で10店舗を展開。World’s/ Asia’s Best Bars においては世界最多の42回を受賞している。
2017年 バー業界のアカデミー賞と言われるTales of the Cocktail International Bartender of the Yearを受賞し、Asia’s 50 Best においては個人に贈られる最高賞 Bartender’s Bartender 2019、バー業界を象徴する人物に贈られるIndustry Icon Award 2021 をそれぞれ受賞。 英国誌が選出する「バー業界で最も影響力のある100人」に贈られるBAR WORLD 100 2021 にてアジアトップとなる第4位となっている。